Japanese citations of 漂う

  • 1887, 二葉亭四迷, 浮雲:
    文三は父親の存生中より、家計の困難に心附かぬでは無いが、何と言てもまだ幼少の事、何時までもそれで居られるような心地がされて、親思いの心から、今に坊がああしてこうしてと、年齢には増せた事を言い出しては両親に袂を絞らせた事は有ても、又|何処ともなく他愛のない所も有て、浪に漂う浮艸の、うかうかとして月日を重ねたが、父の死後|便のない母親の辛苦心労を見るに付け聞くに付け、小供心にも心細くもまた悲しく、始めて浮世の塩が身に浸みて、夢の覚たような心地。
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  • 1889, 幸田露伴, 風流仏:
    さりとては忌々し、一心乱れてあれかこれかの二途に別れ、お辰が声を耳に聞しか、吉兵衛の意見ひし/\と中りて残念や、妄想の影法師に馬鹿にされ、有もせぬ声まで聞し愚さ、箇程までに迷わせたるお辰め、汝も浮世の潮に漂う浮萍のような定なき女と知らで天上の菩薩と誤り、勿体なき光輪まで付たる事口惜し、何処の業平なり癩病なり、勝手に縁組、勝手に楽め。
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  • 1897, 国木田独歩, おとずれ:
    五月雨も夕暮れも暮れゆく春もこの二人にはとりわけて悲しからずとりわけてうれしからぬようなり、ただおのが唄う声の調べのまにまにおのが魂を漂わせつ、人の上も世の事も絶えて知らざるなり。
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  • 1898, 徳冨蘆花, 小説 不如帰:
    珍しくうららかに浅碧をのべし初春の空は、四枚の障子に立て隔てられたれど、悠々たる日の光くまなく紙障に栄えて、余りの光は紙を透かして浪子が仰ぎ臥しつつ黒スコッチの韈を編める手先と、雪より白き枕に漂う寝乱れ髪の上にちらちらおどりぬ。
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  • 1909, 永井荷風, :
    丁度、西南戦争の後程もなく、世の中は、謀反人だの、刺客だの、強盗だのと、殺伐残忍の話ばかり、少しく門構の大きい地位ある人の屋敷や、土蔵の厳めしい商家の縁の下からは、夜陰に主人の寝息を伺って、いつ脅迫暗殺の白刄が畳を貫いて閃き出るか計られぬと云うような暗澹極まる疑念が、何処となしに時代の空気の中に漂って居た頃で、私の家では、父とも母とも、誰れの発議とも知らず、出入の鳶の者に夜廻りをさせるようにした。
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  • 1917, 折口信夫, 身毒丸:
    秋の末から冬へかけて、遠く見渡す岸の姫松の梢が、海風に揉まれて白い砂地の上に波のやうに漂うてゐる。
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  • 1918, 宮地嘉六, 煤煙の臭ひ:
    そこには人足達の肩を煩はしたいろ/\の貨物の山、起重機で捲き揚げられた鉄材、思ひ/\に旅装をして汽船に乗り込む客、艀から上陸する人、そこには常に放浪病者を魅惑するやうな遠い国々の幻影が漂うてゐた。
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  • 1927, 葉山嘉樹, 生爪を剥ぐ:
    プロレタリアの群居街からは、ユラユラとプロレタリアの蒸焼きの煙のような、見えないほてりが、トタン屋根の上に漂うていた。
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  • 1932, 魯迅, 幸福な家庭:
    彼は一つのひらたい丸い黒い花が、黄橙の心をなして浮き出し左眼の左角から漂うて右に到って消え失せた。
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  • 1934, 菊池寛, 貞操問答:
    この二十日から、夏休みになりますので、本当は九月から、お願いしてもいいのですが、貴女のご都合がおよろしければ、休み中軽井沢の方へ行きますので、あちらへ来て頂いても、よろしいのですが……」と、手をのばして、シガーボックスから、キリアジを取り、火を点じると、やがてゆるやかに紫煙を漂わせた。
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  • 1938, 小栗虫太郎, 方子と末起:
    色白で、細面ですらりとした瘠せ形で、どこかに、人の母となっても邪気なさが漂っていた。
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  • 1939, 蘭郁二郎, 地図にない島:
    さっきは、返事一つしない叔父の様子に、一途に憤慨したのだが、それにしても、かつてはいかにも科学者らしく、冷静そのもののように表情というものを現わさなかった細川三之助が、たとえ僅かでもポッと赤味を漂わせたり、鬢の顫えを見せたりしたのは、きっと心には激しい動揺を覚えていたに違いないのだ。
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  • 1942, 佐藤垢石, 木の葉山女魚:
    そして波間に漂う落葉の色を見ると、奥の嶺々を飾っていた紅葉は、そろそろ散り始めて山肌をあらわに薄寒く、隣の谷まで忍び寄ってきた冬に慄いているさまが想えるのである。
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  • 1943, 堀辰雄, 大和路・信濃路:
    だが、この目をほそめて合掌をしている無心そうな菩薩の像には、どこか一抹の哀愁のようなものが漂っており、それがこんなにも素直にわれわれを此の像に親しませるのだという気のするのは、僕だけの感じであろうか。
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  • 1948, 坂口安吾, 戦争論:
    今日に於ては、人々は軍服をぬぎながら、そして、武器を放しながら、庶民的習性に帰るよりも、むしろ多くの軍人的習性をのこし、民主々義的な形態の上に軍国調や好戦癖を漂わしているのである。
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  • 1950, 宮本百合子, 私の信条:
    その脅威はその後の五年間に段々上昇して、いまではまるで地球の真上にいつ爆発するかもしれない脅威として漂っている。
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  • 1951, 豊島与志雄, 怒りの虫:
    初めは、なんのことか、あたりの者も解しかねたが、やがて、不穏な空気がふっと漂ってきた。
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  • 1956, 橘外男, 墓が呼んでいる:
    その間に、新築間もないらしい日本家屋と白壁作りの異国風な情緒を漂わせて、洋館が聳えているのです。
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  • 1957, 久生十蘭, 肌色の月:
    久美子が漕ぎだそうと思っていた湖心のあたりに、乗り手のいない空のボートが、風につれて舳の向きをかえながら、漫然と漂っているのが見えた。
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